16/1/5
『「タバコは二十歳になってから」の裏』
沖田東一
|
『 「タバコは二十歳になってから」の裏 』
沖田東一 国益研究会『中野』 事務局長
「 タバコは二十歳になってから」
このキャッチコピーを、一度は目にしたことがあるだろう。JT(日本たばこ産業)の制作した喫煙抑制のコピーである。
しかし、私はこのコピーに非常に違和感を感じている。この文面が児童の喫煙を促進しているに他ならないからだ。
なぜ私がそう感じるのか、それには思春期の少年の持つ独特の心理状態が大きく関わっている。以下に例を挙げて説明する。
◇思春期の精神に付け込んだJTの宣伝工作
このコピーを見た少年は、まずこう思うだろう。「じゃあ、二十歳になったら吸ってもいいんだ」そして次に、こう考える。「二十歳以上の人が吸っているのなら、僕が吸ってもいいはずだ」
思春期の少年少女の精神は大人への変身願望がとても強い。彼らがこのキャッチコピーでタバコを大人の条件或いは付随物として認識してしまうと、かえって彼らのタバコへの関心を高める結果となるだろう。
実際にこのコピーを目にした人間の1割の人間がが「タバコを吸いたくなった」という調査が出ている(※)。喫煙予防のはずのコピーが、逆に喫煙を誘っているのである。
また、禁煙ポスターに「なぜ未成年は吸ってはいけないのか」という理由が明記されていないことも問題である。
人間は「するな!」と禁止された事は逆に関心をもってしまうところがある。とりわけ思春期には抑制・規制への反発傾向が強い。日本のキャッチコピーのように理由もなく「ダメ」と書いても、かえって未成年の反発心・好奇心をあおることになりかねない。
海外では、こうした事を踏まえて、タバコのコピーは「タバコを吸うとガンになります」「タバコを吸うと寿命が20年縮みます」など、警告的要素を多く含んだ文面となっている。こうした警告的なコピーにすることで未成年の禁煙抑制に効果があることは調査により報告されている(※)。
しかし日本では、そうした警告的要素が薄いため、未成年の抑止力にはならず、かえって喫煙への関心を助長させているといえるだろう。
私はむしろ、今のご時世でおおっぴらに宣伝できなくなったタバコ業界が、こういう反語表現を使用する事で未成年者にタバコへの関心を植え付けようとしているのではないかと思っている。
これらの問題はWHOでも取り上げられ、日本に対して、このような未成年や若者をターゲットとした巧妙な宣伝活動を、「極めて悪質である」と非難している。(※2)
◇児童への禁煙指導は、まず大人から
海外では児童の喫煙対策は、未成年よりもむしろ大人をターゲットにしている。
なぜなら、子供は基本的に大人を真似て成長するからであり、大人の喫煙率を下げて、子供の周囲にタバコの存在自体をなくしてしまう事こそが、未成年への喫煙予防に最も効果的と考えているからである。
そのために海外では専門家が頭を捻って大人の喫煙防止に力を注いでいる。
「子供の喫煙予防だけやっていて喫煙率を下げたという事例はない。大人が吸わなければ、子供は吸わない。」
ある研究家のコメントであるが、誠にその通りである。そもそも、人間は周囲が取っていない行動はおいそれとは取らないものである。周囲にタバコを吸う人も、タバコの匂いも吸殻も無ければ、タバコを始めようとする児童は確実に減少する。
日本では学校や児童の公共施設において、禁煙のポスターがよく貼られているが、今のポスターでは、逆に児童へのタバコの関心を持たせる一助になっているのではないだろうか。
児童に禁煙をよびかけるつもりが、逆にタバコ会社の宣伝工作に踊らされている、という事がないよう注意したい。
※:淡路医師会調査、他
※2:日本は非難に対し、文面を「未成年者の喫煙は禁じられています」と変更したが、この程度では本質的に全く変わっていない。
参考:伊佐山芳郎著『現代たばこ戦争』(岩波新書)
淡路圏域における学校の喫煙状況調査報告書(淡路医師会)
|