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16/4/2
『台湾総統選挙視察リポート』

リポート(バックナンバー)


0001『竹中太一の中国滞在リポート@』
国益研究会『中野』大阪本部所属 竹中太一

0002『ミャンマー訪問記』
国益研究会『中野』大阪本部幹事長 白谷一樹

0003『台湾総統選挙視察リポート』
国益研究会『中野』大阪本部所属 中谷真代

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『 台湾総統選挙視察リポート 』


日時:平成16年3月19日〜21日
視察場所:台湾

中谷 真代
国益研究会『中野』
大阪本部所属

 
 先日3月20日に行われた、世界中が注目した台湾総統選挙。私たち国益研究会『中野』のメンバーは、この歴史に残るであろうビッグイベントを自分たちの目で見て来ようと、訪台してきた。滞在は選挙前日の19日から選挙翌日の21日までの2泊3日という短い期間であったが、それはもう、いろんな意味で大変な衝撃を多く受けて帰ってきた。

 そもそも、この台湾総統選挙が何故、これほどまでに注目されているのか。それはメディアで報道されているとおり、台湾が独立するか否か、つまり中国人になるか台湾人になるかを決める大きな決断となるからだ。少し歴史をさかのぼると、共産党に追われた蒋介石率いる国民党は、日本が敗戦し台湾から撤退するやいなや台湾に乗り込み、汚職に満ちた政治を行って台湾人の期待を長年にわたり裏切ってきた。実際、2.28事件によって殺害された台湾人は3万人もいるという事実がある。彼らは日本語を話すと逮捕され、殺された。ほんの十数年前まで、台湾全土にわたって戒厳令が布かれ、道ばたで写真を撮ることさえ許されなかったというのだから、驚きである。
 
 そんな台湾を初めて民主化しようと立ち上がったのが、尊敬する李登輝前総統である。李登輝前総統は現職時代はもちろん、先日2月28日に行われた「2・28人間の鎖行動」を見ても判るとおり、台湾の民主化・独立のため、歴史的に大きな変化をもたらした。あれほどの愛をもって台湾を自由に導いた李登輝前総統が、日本の武士道精神を愛しているというのであるから、日本人としては全く脱帽である。その後、新たに4年前に就任したのが陳水扁総統である。陳総統も李登輝総統同様、台湾人のアイデンティティに対する意識を高めた人物である。事実、とある台湾紙が行ったアンケートでは「自分は台湾人である」という意識を持っている人は、15年前ではたった16%であったのだが、昨年10月では62%にまで増加したという。ところが、中国はさまざまな利権もあって台湾を独立させたくない。独立するなら武力行使も厭わないと、台湾に向けて約500基のミサイルを装備している。
 
 現在、台湾経済は中国に支えられていると言っても過言ではない。実際、中国に台湾の実業家が30万人、家族も含めると100万人が渡っているというのだから、中国への経済的依存は半端ではないということが判る。2008年には北京でオリンピックが開催される。これが台湾独立のカギになる。このまま台湾が中国に依存し続けると、経済面、外交面、軍事面での格差が広がり、オリンピック以降は独立することは不可能になるだろう。一方、オリンピック以前に仮に台湾が独立を宣言しても、世界各国からのボイコットが起きることを恐れ、中国政府は軍事侵攻はできない。つまり中国が強気に出ることができない時期で、台湾にとっても比較的安全が確保できる時期、というのがまさに今、独立は今回がラストチャンスだったのである。恐ろしいことに連戦氏がもし当選した場合、彼は5月の就任後すぐに訪中し、李登輝前総統や陳水扁総統や呂秀蓮副総統の逮捕など、独立派の人々を徹底的に取り締まることを考えていたという。とは言うものの、4年前の選挙のときの、軍事演習のパフォーマンスは今回見られなかったことから、ずいぶん世界各国の目を意識していることが判る。

 さて、日本にとって台湾は独立したほうがいいのだろうか。答えはYES。も
し台湾が中国に併合されてしまえば、当然、日本は東南アジアとのシーレーンが分断されてしまうだけでなく、大陸戦略も決定的な打撃を受ける。今でさえ中国の顔色伺いばかりしているというのに、全く日本の国益を損ねる戦法しか打ち出せなくなる。近松門左衛門の『国姓爺合戦』にも出てくるように、鄭成功が清朝からの脅威に脅かされたとき、日本は鎖国体制にあったのにもかかわらず、援軍を出兵する決定を下している。実際は出兵前に鄭氏政権が崩壊したため現実化しなかったが、江戸幕府の老中たちは台湾が日本の安全にとって極めて重要な位置を占めることを理解していたのである。この事実は何世紀経っても、普遍的な意味を持っていると考えられると思う。ところが日本の外務省ときたらどうか!平然と内政干渉とも思える発言をし「中国様々」のご機嫌を伺うため台湾独立を牽制するような発言をしてしまったではないか!とんでもない!ということで、我々は独立を応援するべく、台湾へ旅立ったのである。

 19日昼、中正国際空港に到着、ホテルまでバスに乗る。私は1月にも訪台したのだが、窓から見える景色が以前と少し違う。以前は、空港はもちろん、台北市内の道路や公共の建物には、ずいぶん多くの中華民国の旗がはためいていた。それほどまでに国旗を掲げられている光景を見たのは初めてだったうえ、国旗が野党の国民党とw)同じ旗であることに大変な違和感を感じた。今はその代わりに、街の至る所に両陣営を応援する旗が目に付く。早くも気分が高まり選挙の行く末に胸が躍る。ホテルに到着し、ほっと一息つこうとテレビをつけたところ、陳水扁総統と呂秀蓮副総統が銃撃され、近くの病院に運ばれたことを知った。報道される内容もかなり混乱していて、突然ショッキングなニュースに衝撃を受けた。その日は近くで100万人もの人が集まってイベントがあったほか、晩餐会に出席する予定だったのだがそれどころではなく、ただふたりが本当に無事なのかどうか、翌日の投票がどうなるのかが心配だった。選挙ともなると、やはり情報戦は大きな割合を占める。犯人が分からないこともあいまって、情報が入り乱れていた。選挙期間を通じて、マスコミを通じたニュースは、国民に大きな影響を与えていたと思う。

 どうやらふたりの命は無事だったということだったのだが、翌日に投票日を控えての事件に早くも波乱の予感を抱きつつ、台北の街に出る。もう夜中だというのに静まる様子がなく、タクシーの窓から外を見ると、通り過ぎる車もバイクも緑色の旗を何本も立てて勢いよく走っている。陳総統の選挙事務所の前まで来るとすごい人だかりで、まるでお祭りのように道に人が溢れていた。歩いていると道行く人が声をかけてくる。「陳当選!」「Yes! Taiwan!」などと行き交う人と声を掛け合う。自分がどちらの政党を支持するか、どんな迷いを持っているかを積極的に話しかけてくる人もいる。台湾の総統選挙における投票率は80%を越える。国のリーダーを決めるため、一人一人が真剣に考えていることに感激した。

 投票日当日、開票は16時からということだったので急いで会場へ向かう。私たちは日本から来たということをアピールするため、大きめの日章旗2本と、片手で持てる大きさのものを3本、その他ある者は必勝ハチマキをつけたり、プラカードを持参するなど、かなりの気合いが入った身なりで参上した。日章旗には「日台共栄」「Yes Taiwan」「陳水扁」などといったメッセージを書いた。会場は一体どれくらいの人がいたのか人数の把握ができないが、今まで見たことのない数の人が集まっていた。会場の真ん中にはステージが設置されており、数人が演説を行っている。電光掲示板では開票状況を表示しており、集まった人が都度都度盛り上がる。それぞれが緑の旗を掲げ、見渡す限り旗の波が続いており、話がしたくても全く声が聞こえないほどの大きな音が鳴り響き、すごい熱気だった。マスコミの取材も受ける。周囲には数々のTVカメラやリポーターが集まっていた。その人混みの中を日章旗を掲げ歩いていくと、大勢の人が目を輝かせる。「日本人だ!」そう言って「ありがとう!ありがとう!」とすれ違う人全員から声をかけられる。そして、身動きができないほどの人混みなのにもかかわらず、周りにいる誰もが「この日本人を通してあげて!」と言って道をあけてくれる。

 どれくらい人混みにいただろうか。突然紙吹雪が舞い、陳総統が再選されたことを知った。得票が僅差であったことは後から知って驚いたのだが、皆の興奮状態は最高潮に達していた。台湾人が勝利を勝ち取った瞬間だった。私たちも感激しながら人混みを抜けると、歩いていくところに人だかりができ、写真を撮られ続ける。米国の星条旗を持っているアメリカ人も見かけたが、日の丸の影響はすごかった。一体、何なのか・・・日本で日の丸を掲げようものなら危うく右翼に間違えられかねないところが、台湾ではそうではない。まるで映画のヒーローかヒロインのようだった。


総統再選を台湾人とともに祝う(撮影:中谷)

 翌日、早朝からTVをつけると、敗退した国民党のデモの様子が目に飛び込んできた。どうやら夜通し総統府の前で、本当は野党陣営が勝っていたなどと抗議を行っていた様子。滞在していたホテルがすぐ近くだったので、様子を見ようと総統府へ向かう。正面はバリケードで封鎖、有刺鉄線が張り巡らされて、警察や機動隊が夜通しの戦いに疲れ果てた様子で道に転がっていた。蒋介石の像がある広場に野党支持者が集まっており、抗議していた。これもまたすごい熱気だったが、投票前日に陳総統が銃撃されたときに連戦氏は、「投票結果に異論はない」と力強く語っていたのにもかかわらず、いざ敗退すると、「銃撃事件は自作自演だ」などと言いがかりをつけ始めていた。思わず中国側のいつものやり方に苦笑した。

 得票数の差は約3万票。無効票数が約30万票あったことは、今回から審査が厳しくなったことから当然予測できたことであるが、野党が吠えるには理由がある。それもそのはず、民主化が進んだとはいえ、闇で票の買収が当たり前のように行われているという。国民党は約2兆700億円とも言われる資金力にモノを言わせて、当然得票数を伸ばし圧勝していると思っていたのである。ところが蓋を開けてみると、台湾人に強く根付いた民族意識はそれ以上のものであったのである。それは私たちが出会った数々の人達との会話からも、実感していたことであったのだが、海外に居住している数多くの台湾人が、自分たちは中国人ではなく台湾人だと、今回の投票のために帰国していた。そのうえ投票は無記名なので誰に投票したか判らない。まったく目に見えない部分の戦いで、台湾人がついに勝ち取った勝利だったと言える。

 総統選が終わって一週間経っても、得票数がほぼ二分したことから、盛り上がりが未だ冷めていない。これは台湾の歴史における大きな決断と結果の決定的な証拠だからだと言えると思う。中には、台湾人が親日であるというのは嘘だと言う人もいる。だが、私は親日の台湾人は本当に多いと実感している。台湾全土の2割も満たない外省人(中国人)による教育や情報操作によって若い世代では反日の人も増えたと思われるが、やはり日本の台湾における影響力というのは大きい。少なくとも、台湾人は日本人として戦争を共に戦ってきたという歴史があることは事実であり、天皇陛下を讃え、自分たちは大和魂を持っていると誇りを持ち、胸を張る人が大勢いる。中国人に侵略されてから、数々の日本建築や神社が破壊されたが、本省人である台湾人は日本人が台湾を支えた功績を必死に守ろうとしている。今でも台湾で活躍した日本人をまるで自分のことのように自慢する。実に愛国心の強い人達なのだ。私たち日本人は、どういう立場で中国と台湾と関係を持っていくのか、今後は我々に選択肢が与えられたと言える。我々日本人は、中国に媚び続ける外交をこのまま続けるのか、外交面から国益を考え直さなければいけないと思う。