平成23年1月5日
年末に霧島温泉に旅行に行った際、「建設反対!」と書かれた看板を多く見かけた。何かと思ってよく見ると、それは霧島国立公園への地熱発電所建設に反対する看板であった。
地熱発電とは、地下の熱資源(火山、温水など)を利用して行う発電のことである。国内では18の発電所があり、その発電量の総計は53万キロワット(世界第6位)になる。火山国である日本には発電利用できる熱資源が多く(約2500万キロワットで世界第3位)、環境的にも地熱発電に向いているとされている。
しかしながら、日本の地熱発電設置は余り進んでいない。先ほど示した53万キロワットという発電量も、国内消費電力の僅か0.2%にすぎない。停滞の理由は地元温泉地の反対運動である。地熱発電では地熱水を発電に利用するが、このときに奪われた熱量や水量が源泉に影響するという懸念が反対派から出ている。冒頭の霧島温泉が建設を反対している理由もこれであり、実際に地熱発電所を設置した地域で湯量が減ったという報告もある。観光業で収益を上げる温泉地としては黙っていられないのだろう。
しかし、実際には湯量減少と地熱発電の関連性は証明されていない。国内の温泉湯量の低下は全国的に見られており、その原因は温泉の乱掘削や、舗装道路による地下水の減少によるものだからである。また国内の発電所は汲み上げた地下水を地下に還元する対策をとっており、湯量への影響は殆どないという見方もある。また鹿児島県指宿市にある山川地熱発電所には、近郊に「砂蒸し温泉」などの温泉施設があるが、開業以降も特に湯量の変化は出ていない。
仮に湯量の低下と因果関係があったとするならば、このような差が出ているのは何故か。可能性としては発電所の利用している地熱水源と、湯量の減った温泉施設の利用する水源との因果関係の事前調査不足が挙げられる。本当に水脈が異なっていれば、影響が出るはずがないからだ。しかし現在では、地下水源の位置などを正確に調査できるようになっており、温泉源と同じかどうかは確認できる。事前の調査を徹底すれば、既存の温泉施設への影響をゼロにして、観光地としての価値を失うことなく共存することは可能である。
しかし、温泉地の不信感は強い。もともと地熱発電自体が自分たちには異質な代物であり、また行政の上から目線的な推し進め方も彼らの不信感に拍車をかけている。冒頭の霧島温泉でも、最初は水源調査の為だけの掘削はずが、地元の知らぬ間に開発ありきに行政が変化して、地元の態度を硬化させた。このような進め方では、成功するものも成功しなくなるだろう。
エネルギー資源に乏しい日本にとって、地熱は大きな資源であり、有効活用しない手はない。しかしそのためには地元との合意が不可欠である。行政は地元の不信を拭い去るために、科学的に実証された資料の提示を行い、実績を作っていってもらいたい。
参考:
wikipedia地熱発電
地熱発電の環境への影響
http://www.geocities.jp/morikonamia/tinetu.html#M5
地熱発電と温泉は共存できるか
http://eco.nikkeibp.co.jp/article/report/20090224/100849/
日帰り温泉ガイド九州
など。
文筆:沖田東一