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海上保安官は罪に問えるか  沖田 東一

平成22年11月11日

“罪の意識ない”と打ち明け

 事情聴取を受けている神戸海上保安部の海上保安官は、10日、衝突事件の映像を流出したと巡視艇の船長に打ち明けた際、「罪を犯した認識はない」と話していたことが、海上保安庁関係者への取材でわかりました。
 この海上保安官は、10日、巡視艇に乗務していたとき、船長に対して衝突事故の映像を流出させたことを打ち明けたということです。海上保安庁の関係者によりますと、その際、船長が「捜査に協力するのか」という趣旨のことを聞いたところ、海上保安官は「捜査には協力します。しかし、罪を犯したという認識はない」と答えたというということです。この海上保安官は、警視庁などの事情聴取に対しても「悪いことだとは思っておらず、犯罪には当たらない。本来、隠すべき映像ではない」という趣旨の話をしているということで、警視庁などは引き続き事情を聴いています。
(11月11日 NHK)
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コメント:
 個人的にはよくやったと思うが、情報の漏洩を行ったのは事実だから、まったくの無罪とは言えないだろう。しかし、一般的な機密情報漏えい事件と異なり、今回の流出は実質的に内部告発にあたるものだ。よって公益通報者保護法の適用となり、告発者は法的に保護される立場ともいえる。また、罪状となる国家公務員機密情報保護法にしても、機密情報の定義『機密することが望ましいとされる情報、被疑者の名誉を害する情報』から考えると、適用が妥当なのか判断が複雑なところだ(当初海保は公開する予定であり、機密することが有益だったとは言えない。被疑者の中国人の加害行為は明らかで、動画公開が名誉棄損とはならない)。これらのことを考えると、中国漁船衝突映像を流出させた海上保安官に情報漏えい罪を適用できるか、刑事罰とすべきかどうか、は慎重に判断すべきであり、仙谷の発言のように、無条件に刑事罰を与えるというのは、逆に法治国家としては誤った対応となる。
 明治時代、日本人衛兵がロシア皇太子に刃傷を負わせた事件について、政府は犯人を死罪とするよう圧力をかけたが、立法府は毅然とした対応を取り、日本が法治国家であることを世界に知らしめた。今回の事件でも政府の干渉が見られるが、これまで培った信用を失うことの無いよう、法の判断に期待する。

文筆:沖田東一