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偽物の日中友好はいらない  沖田 東一

平成22年8月1日

 京都奈良の空襲を防いだと言われる梁思成の胸像が、中国より奈良県に寄贈されるらしい。去年に芸術家の平山郁夫より打診があり、産経新聞の記事によると、すでに胸像は完成し、10月末の式典で奈良県庁に寄贈、県庁付近の施設に設置されるとのことである。
 梁思成は中国の建築研究家で、大東亜戦争中に京都・奈良への空襲をやめるよう米軍に進言し、貴重な文化財の損失を防いだといわれている。
 これが事実ならば、胸像が飾られるに相応しい人物であるが、あいにくそういった事実を示す証拠はない。奈良京都に大阪や東京のような規模の大空襲が無かったのは軍事施設が少なかったことと、原爆投下の候補地だったからだ(新兵器の威力確認に@盆地でA一定の人口のある都市が候補地として選ばれており、京都市も適地とされていた)。戦争が長引いていれば原爆によって京都は消滅させられていただろう。また、京都は大規模な空襲こそ無かったが、幾度か米軍の空襲を受けている。もし米軍が梁氏の進言を受け入れたというのなら、空襲自体が無かったはずである。「梁思成が京都奈良を守った」というのは根拠のない内容である。
 にもかかわらず、中国はあたかも自分達の功績だとして、梁思成の胸像を日本に贈ろうとしている。中国の意図は明らかだ。居もしない恩人を創作し、日本に恩を売り、今後の日中外交を有利に進めるつもりであろう。「我々中国は日本に侵略されたにもかかわらず、日本の文化財を戦火から守ろうとした。感謝の印に云々」というわけだ。
 胸像は奈良県庁に寄贈されることが決まっているが、これを受け取るということは、上記の中国の主張を受け入れるということになる。奈良県は毅然と対応し、寄贈を断って欲しい。偽物の日中友好のために、誤った歴史を作ってはならない。

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「奈良の恩人」銅像が完成 梁思成氏 北京(平成22年6月12日 産経)

 第2次大戦の際に奈良、京都の爆撃回避に尽力したといわれる中国の著名な建築史家、故梁思成氏の銅像がこのほど完成し、12日に北京の国家博物館で披露式典が行われた。銅像は10月末、「平城遷都1300年祭」を行う奈良県に寄贈される。
 式典に出席した奈良県の窪田修副知事は「梁先生は奈良を守ってくれた恩人。日中友好の歴史をあらためて確認できて大変感謝している」と述べた。銅像は県庁近くに設置される予定。
 梁氏は1901年、日本生まれ。米国で学び、中国に帰国後、古代建造物の研究に従事。大戦末期には歴史的建造物の重要性から奈良、京都を爆撃しないよう米軍に進言したといわれる。

文筆:沖田東一