平成22年7月7日
紀伊山中の大台ケ原は、年間降雨量が5000ミリという世界有数の多雨地帯で、屋久島と並ぶ貴重な原生林が形成されている地域であるが、この原生林の生態系に変化が生じている。野生の鹿が異常繁殖し、人里付近まで生息圏が伸びている。植物ではかつて一面に繁殖していたトウヒの立ち枯れ現象があちこちで起こっている。
上記の事象に大きくかかわっているのは人間による開発だ。
野生の鹿の繁殖の原因は、かつて鹿の捕食者であったニホンオオカミが絶滅したからだが、絶滅させたのは人間だ。明治時代にニホンオオカミを害獣として駆逐した結果オオカミの数は激減し、僅かに残っていたオオカミも、龍神スカイライン、大台ケ原ドライブウェイ、池原ダムという、原生林への開発事業によって生息圏を寸断され、その姿を永遠に消してしまった。捕食者がいなくなった鹿が増えるのは当然であろう。現在ハンターが間引き調整を行っているが、ハンターも年々高齢化しており、いつまでも頼るわけにはいかない。
トウヒの立ち枯れも人間の影響が大きい。増えすぎたシカによる食害が原因と言う人もいるが、もともと鹿はトウヒを食べることは少ないうえ、近年は鹿の餌である笹類が繁殖しているので、鹿がトウヒを食べることは殆どない。トウヒが減った原因は、杉やヒノキの植林事業のために原生林を伐採したことと、ドライブウェイ開通で観光化が進み、原生林が荒らされたことにある。
大台ケ原ドライブウェイの終点である駐車場には。国の特別保護地区にもかかわらず、食堂やビジターセンター、宿泊施設や土産物屋、自販機、トイレなどが建ち並んでいる。すべては年間約数十万人の観光客のためだ。この施備のために、電線や水道などの設置工事や開発がおこなわれている。観光客は大台ケ原ドライブウェイをマイカーであがってくるが、排気ガスや観光客の出すゴミなど、原生林の植生へ与える影響は大きい。
国が直接管理する保護区域で、このような状態は信じられない。一日も早くドライブウェイのマイカー規制を実施すべきである。駐車場も大台ケ原周回線歩道も必要ない。西大台は平成19年より入山が規制されているが、大台ケ原全域に同様の規制措置を取るべきである。もともと大台ケ原は容易に人が立ち入ることが出来ない地域だからこそ、原生林がこれまで残ってきたのだ。将来的にはドライブウェイ自体も廃止して原生林の環境改善をはかるべきである。
野生の鹿の繁殖への対策については、後日のコラムで書きたい。
文筆:沖田東一