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シロナガスクジラが増えない理由 沖田 東一

平成15年4月15日

   シロナガス鯨は絶滅の恐れがある生き物である。
 シロナガス鯨は35億年の地球の生物史上に出現した動物の中で最大の動物であり、体長は25m、体重は150tと、まさに海の王者と呼ぶにふさわしい生き物だが、捕鯨砲による近代捕鯨の始まりとともに、乱獲によって頭数を減らされ(特にシロナガスクジラは鯨油生産効率が良かったので狙われやすかった)、昭和40(1965)年にIWCがシロナガス捕獲が禁止された頃には数千頭と、既に絶滅寸前にまで激減していた。
 その後、失われた頭数を回復すべく、様々な調査が行われているが、40年たった今も頭数増加の傾向がみられず、IWCが平成元(1989)年に発表した生息数調査結果でも、ミンク鯨など小型の鯨が増加し、シロナガスは減ったままである。

 シロナガスが増えない理由は(個体数の少なさや繁殖力の弱さも一因であるが)、上に挙げたミンク鯨等、小型の海棲生物の増加であると言われている。ミンク鯨はかつては7万頭前後であったがシロナガス鯨、ナガス鯨が減り始めた1940年代より数が増えはじめ、現在は南氷洋だけで76万頭(平成2年調査)、全世界では90万頭とも200万頭以上とも言われ、今もその数は増え続けている。
 日本鯨類研究所によれば、南氷洋においてのミンク鯨とシロナガス鯨の競合において、シロナガス鯨の頭数は、捕鯨開始から現在で、その数を0.5%にまで減らしたのに対し、ミンク鯨は逆に9.5倍に増加している。
 比較すると「ミンク59万トン:シロナガス1500万トン」⇒「ミンク560万トン:シロナガス7万トン」となっており、完全な逆転現象である。 シロナガス鯨の餌と増え続けるミンク鯨の餌は同じである。当然棲息区域も競合している。大量に増えたミンク鯨によりシロナガス鯨が頭数拡大の場を奪われ、数が増えずにいるのである。

 頭数が10倍にも増えたミンク鯨は、もはや間引かなければ生態系に影響が出る状態であり、既にミンク鯨の餌である鰯などの魚が減少するなど、漁業にも色々と悪影響が出ている。
 ミンク鯨とシロナガス鯨とのバランスについては、捕鯨による頭数調整を行えば、充分に解決する問題である。こうした「間引き」を商業捕鯨推進の理由にするつもりはないが(する必要もないだろう)、人間の手で回復可能な生態系バランスは極力回復させるべきだと私は思う。
 シロナガス鯨は絶滅の恐れがある生き物である。シロナガス鯨を助ける為に、ミンク鯨の頭数管理を含めた捕鯨を認めるべきではないだろうか。

(追筆)
 ミンク鯨の間引きによってシロナガスの頭数が回復したしても、この問題はまだ終わりではない。
 既に頭数が数千頭に減っているシロナガス鯨には、遺伝子の多様性が失われている。種内に遺伝的な多様性が保てないと、病原菌や環境の激変に全ての個体が一様に反応してしまう為、もしその変化に対応できなかった場合、一挙に絶滅する危険性がある。一度減少した種は、その後に個体数が少々増えたところで、遺伝的な多様性はなかなか回復しない。シロナガス鯨には絶滅の危険が長期間つきまとうことになる。
 これらのことを考えれば、我々がシロナガス鯨を救うためには、種が遺伝的な多様性を取り戻す方策を考え、それが実現するまでは長期的に管理していく必要がある。

文筆:沖田東一